針箱

私が針箱として使っている引き出しです。先日、かわいい手作りピンクッションを頂いたので、入れる場所を作りながら針箱の整理をしました。マチ針がたくさん刺してあるレース糸で編んだのが頂いた物で、手前のちょっと変わった柄のが私がむか〜し縮緬で作ったものです。
最近でこそ、横好きの買う物は蕎麦猪口と筒描に限定されていますが、骨董の世界を知ったばかりの10年以上前は、とにかく色々な物に興味があって、たくさんの骨董屋をまわりました。この針箱は、その頃買ったのですが、実は骨董屋で買った物ではありません。


ご存知の方も多いとは思いますが、骨董店に並んでいる商品は、特別な物を除けば、うぶ出し屋と呼ばれる人たちが、蔵のある様な旧家を一軒一軒まわって仕入れて来た物です。今はうぶ出し屋にとって受難の時代で、テレビ番組のお陰で一般の人にも古い物の値段が判ってしまい、何でもかんでも安く入手できない様になったのですが、新しい物を良しとした時代には色々な物がゴミの様に出たのだそうです。そういう物の中には、買い手が付く度に値上がりして、最終的には何千万円にもなったという名品もあって、骨董業界では語り草になっていたりするのですが、そんな特別な物以外は業者の競り市で落札されて、それ相応の店に並びます。
しかし、中にはどこにも買ってもらえない様な物もあります。そんな値段の付かない物を競る、素人でも入れてくれるガラクタ市というのがあります。通常、業者の競り市は、古美術商の鑑札を持っている人しか参加できないので、私たちは入れません。かなり昔は、鑑札を取るのがそれほど難しくなかったらしく、良い物を手に入れたい収集家が鑑札を取って、競り市で欲しい物を買うというのを聞いたことがありますが、今は簡単に鑑札は貰えないようです。


で、結局私たちが行けるのはガラクタ市。売りに来るのは殆どが露天商やセミプロ等ですが、このガラクタ市、彼ら曰く、素人相手のゴミ捨て場。そのゴミ捨て場で買ったのがこの針箱。まだ、この頃は骨董という物が今の様にポピュラーなものでなく、かなりの胡散臭さを漂わせているものだったので、そういう市に出入りしている事自体が後ろめたくもあったのですが、何回か行ってそこに出入りしている人たちと言葉を交わす様になると結構それが面白い。向こう様にとってはゴミでも、こちらには宝の山で、縮緬細工用の絹の生地が欲しいななんて思って行くと、傷の絹の反物があったりして、いくら?と聞くと200円だったり。


針箱

今では、その頃ゴミと呼ばれていた物が、若い人をターゲットにしたお洒落な店で、素敵にディスプレイされて売られています。これも、テレビが骨董のイメージを大きく変えた功績によるものなのですが、ガラクタ市でタダ同然で買えた物も、もうゴミの値段ではなくなっているのでしょう。
最近はバブル期に高値を付けていた古伊万里も今ひとつぱっとしないようです。ある時は大きな波に乗り、ある時はうねりに飲み込まれ、そんな風に時代を色濃く象徴する古物たち。そんな危うさがあるからこそ、骨董の世界は人々を魅了し続けるのかもしれません。
 
そうそう、古い木の物を手に入れたら、何か塗って生き返らせてあげて下さい。最近は柿渋が流行りで、扱い安い無臭の物も販売されていますが、この頃はなかったので、油屋さんで聞いて、荏胡麻(えごま)から採った荏(え)の油を買って塗りました。何でもシソ科の植物だそうで、昔は行灯の油等に使った様ですが、最近では健康ブームで食用としても人気だそうです。

文 縦好き


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