民芸ひとすじ - 貧好きの蒐集 -
尾久彰三氏講演会 05・07・24

6月12日に尾久彰三氏の『民芸ひとすじ -貧好きの蒐集-』を豊田市民芸館(当サイトのページ)へ見に行ってきた。
今回の主役である尾久氏は骨董好きの人なら必ず一度は訪ねるであろう日本民藝館の主任学芸員。いつもなら展示する側だが、展示される側に立場が逆転。今までもご自分のコレクションをご自身が上梓された本などで紹介することはあっても、こういった場所で大々的に展示するのは、今回が最初で最後だろうとご本人も言っておられた。
蒐集品の展示会を見に行った日に受付の方から、7月24日に尾久氏の記念講演が開催されるとの貴重な情報を得たので再度伺った。


尾久氏は伯父さんが富山市民芸館の館長をなさっていた関係で、幼い頃から民芸品に囲まれた生活をしていたそうだが、それによって全ての人が骨董・民芸品を蒐集する訳ではない筈。やはり好きの素養があったのだろう。それにしても、これだけ多岐にわたるモノを選び抜く審美眼はさすがだ。
ご本人は、一期一会の勝負の結果として得た350点で、「眼で創られた個展」と言ってみえた。
今回、私が一番見たかったのは、「御幣を担ぐ猿」の図柄が描かれた、馬の腹掛けだ。古美術評論家の青柳氏が信州の上田で見つけたものを譲ってもらったと骨董雑誌に書かれており、一度は実物を見たいと思っていただけに、見る事が出来て嬉しさもひとしおだった。この豊田市民芸館は展示品を間近で見ることができるのと、写真撮影が許可されているのが特徴で、もちろん「御幣を担ぐ猿」もカメラに収めてきた。
講演会は一時間半。民芸を語るにはあまりにも短い時間で、尾久氏の柳宗悦に対する思いや、その思想等が話の中心になったが、その間には尾久氏の日常も冗談まじりで散りばめられ、会場内には時々笑いが起こる温かい講演だった。


その中で私の心に残ったのは、「美しいものに出会った瞬間は神を見ている瞬間と同じ」という言葉だ。
世の中には美しいものに魅了されている人が数多くいる。それは人であったり、物であったりと人それぞれ価値観は違うが、それに惹かれる瞬間というのはみな神の捕われの身になってしまっているのかもしれない。私も蕎麦猪口に神を見ているのだろうか、尾久氏の言葉にそんな事を思った。
蒐集品も魅力的だが、この尾久氏にも深い魅力を感じて、もっとたくさんの話を聞いてみたいと思った。ただ、それには宗教家柳宗悦の著書を読むなどして民芸の思想というものを勉強しなければ、本当の意味でのモノの美しさは理解できないような気がした。
本来ならばこの展示会は、尾久氏の友人でもある豊田市民芸館の前館長との間で、現在58歳の尾久氏が定年を迎える2年後を目途に開催する約束がされていたそう。
ところが「今年やりましょう」と前館長から連絡が入り、急遽開催することになったそうだ。今年5月18日に展示品を自らが引き取りに来ると言ってみえたのに、前館長は5月16日に検査入院され、その4日後に亡くなられてしまった。そう言う意味では、今回の展示会は前館長の尾久氏への置き土産とでも言うべきだろう。
亡くなられた前館長のご冥福をお祈り申し上げます。


尾久彰三氏の『民芸ひとすじ -貧好きの蒐集-』
平成17年6月7日(火)〜8月28日(日)
※月曜休館、ただし7月18日(月)は開館
場 所 豊田市民芸館 第一民芸館 第二民芸館
入場料 無料
豊田市民芸館ホームページ


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