蕎麦の細道 時香忘 (じこぼう)


熟成度 3

最近、蕎麦に嵌っている同僚のO君からのお誘いで、木曽の名店『時香忘』に7年振りに訪問しました。当時は開業2年目だったのでそれ程有名では無かったが、それ以降の活躍振りは、TVでの紹介や雑誌への掲載等、目を瞠るものがあります。
どうしても食べてみたい蕎麦があったので、3日前に予約の電話を入れたら、土・日・祝日の営業時間が変更になっている事を知りました。10時30分の開店時間に間に合うように午前7時に豊川ICから東名高速に飛び乗る。休日の割に渋滞にも引っ掛からず9時30には駐車場に到着。見覚えのあるエントランスに石臼が置かれ、何やら数字が書かれたカードが掛けてある。カードには熟成度3と書かれていた。
蕎麦を熟成させている? ふと疑問に思ったが、取りあえず食してから聞いてみる事。ほどなくエントランス入口に掛けられていた棒が外され、いざ店内に。


私が注文したのは、一番目に蕎麦がき、次に予約の野点蕎麦、最後におろし蕎麦をお願いしました。
O君は野点蕎麦ともり蕎麦の2点を注文。
先ず供されたのは蕎麦がき。蕎麦がきを食べた事の無いO君にも1個、お裾分けです。極めて粗く挽いた蕎麦粉を水で硬めに溶いて捏ねあげられてる。
いままで食してきた蕎麦がきとは全く違い、どちらかと云うと蕎麦団子に近い、もっちりとした食感でした。
そのまま食べてもOK、添えられてきた広島県産の藻塩に付けて食べるも良しです。



蕎麦がき \840円


野点蕎麦 \2,100円

次は前日までに完全予約が必要な野点蕎麦です。
地元、木曽産の玄そばを丸抜き状態にし、石臼で製粉する手法では無く、実のままの状態から麺に打ち上げていると説明文には書かれていた。
これに山菜から採り出した葉脈を0.18%混ぜて通常の10倍以上の時間を掛けて捏ねているそうです。
綺麗に切り揃えられた蕎麦の断面には、押し潰された実が花火の様な模様で閉じ込められていた。
この時期、玄蕎麦には一番厳しい時期なので香りに関しては、最初からそれ程期待をしてませんでした。それを差し引いても、モチモチっとした食感で噛めば噛むほど口の中に甘みが広がり、普段食べ慣れている蕎麦とは違った意味で美味しく感じました。


最後は極粗挽きおやまぼくち蕎麦に辛み大根と鰹節を和えた「おろし蕎麦」。
時香忘では品質の劣化を防ぐために3〜4日毎に粉を挽いていて、篩い(フルイ)は9メッシュと20メッシュを使っているそうです。私の知る限りでは日本で一二を競う程の粗い蕎麦粉に仕上がっています。
この粗挽き粉におやまぼくちの葉脈を0.12%入れて1時間捏ねて打ち上げいる。その為か、腰の強い歯応え充分の蕎麦と辛み大根の辛さに鰹節の風味が絶妙にコラボして美味しかったです。
レジで支払いを済ませてから、蕎麦の感想と7年振りの来店を伝えたら、奥さんが手を止めて詳しい説明をしてくれました。私が伺った当時は今ほど来客数が無く、廃棄する蕎麦が何十食もあったそうです。蕎麦を打つ者として、この状況を黙って見過ごす事は出来ず、何とかならないかと熟考して辿りついたのが『熟成』だったそうです。



おろし蕎麦 \1,575円


もり蕎麦のアップ \1,260円

本来、美味しい蕎麦の原則として「挽きたて・打ちたて・茹でたて』の「三たて」の言葉があります。
これに対し時香忘では、打ちたての蕎麦を寝かせて熟成させると云う。その為、こちらでは熟成をさせる為の特別な氷温庫を作り3〜4日程寝かせたモノを提供しているそうです。庫内温度0度の安定した氷温庫でじっくりと時間をかけて熟成させ、旨味が最高と思われる時に客に供しているとの事でした。
これで、入口に掛けられていたカードの数字の謎が解けました。主人の高田さんは発想が豊かで、今日食した蕎麦以外にも、いか墨蕎麦や毎日は打たないそうですが(1日限定10食程度)で、極粗挽きの田舎蕎麦と更科蕎麦を貼り合せた「夜明け蕎麦」や木材の繊維をつなぎに打った「木蕎麦」等があります。
次回、伺う時には何を注文しようかと選ぶ楽しみが増えました。






平日11:00〜16:00(売り切れ御免)
土・日・祝日10:30〜17:00(売り切れ御免)
4月〜11月は火曜日定休
(8月は無休)
12月〜3月は火・水曜日定休
石臼挽き自家製粉
P有

時香忘のHPはこちら

2012・09・09現在



ポタージュ系のそば湯



 

 じ  こ  ぼう
 
長野県木曽郡木曽町新開芝原8990
TEL:0264-27-6428
営業時間 11:00〜売り切れ終い(夜は要予約)
定休日:火曜日(1・2・3月は火曜・水曜日定休 / 8月は無休)
開田高原・八ヶ岳山麓産玄蕎麦使用・石臼挽き自家製粉・ほぼ十割
HP
05・06・18現在
蕎麦

03年7月に日本三名山に謳われる木曽御嶽山の麓、開田高原の入口に黒川の谷のランドマークを目指し、元々は繊維関係のお仕事をされていた高田さんが50歳を過ぎて開いた拘りのお店。
周りの景観とバランスの取れたモノトーンの建物へは、中庭を囲む長い木道の回廊を抜けて辿り着く。
『時香忘』とはれ、自然のりを楽しんで下さいという意味だそう。


店内

『昔食べたお蕎麦の味が忘れられなくてとうとう蕎麦屋を始めることになりました。採算や打算を捨て、手間隙を惜しまず、ただ美味しい蕎麦を打ちたいと思う気持ちで蕎麦打ちをいたしております。』お店の案内状に書かれている言葉に全てが凝縮されている。
玄蕎麦は自家栽培した開田高原産や八ヶ岳山麓産を使用し、手で臼を廻す時と同じ用にランダムに回転する機械を開発し自家製粉している。
その粉を百数十年の時を経て中央アルプスに湧き出した名水「水源水の水」で打ち上げる。ほぼ100%の超粗挽き蕎麦粉に、おやまぼくち(雄山火口)と言うキク科の植物の葉脈を極僅かだけ混ぜて1時間捏ねているそう。通常では考えられない打ち方だが、今までの十割り蕎麦とは違い、腰がありながらもノド越しの良い一種独特の香りを持つ蕎麦が味わえる。
漬け汁も醤油は勿論、鰹節にも拘り羅臼・日高の昆布を使い、地元で採れる天然のカヤシメジを天日干し、これを戻しただし汁が使われて隠し味となっている。


蕎麦を食べ終えると「メニューにはありませんが、紅茶とセットのデザートはいかがですか」と聞かれた。
いつもならこの後あれこれ予定があるのだが、今回はこの蕎麦屋だけが目的だったので、時間的にも余裕があり、思わず注文してしまった。
蕎麦がきを小さくちぎったものに、ピーナツ・小麦粉などを混ぜてローストしたものをパウダー状にしてまぶしたオリジナルのお菓子。綺麗なクリーム色の粉は、ちょっときな粉に似ているけれど、甘さを押えたここでしか味わえない上等のデザートだ。
全てに拘りを持つ高田さんが自ら電気窯で焼き上げた箸置きやティーカップなどは店内で「kiso TATA CRAFT」として販売されている。
 
粗挽きおやまぼくち蕎麦 1200円
粗挽きおろし蕎麦 1500円
紅茶セット 600円

そばがきにピーナツのローストをまぶしたデザート 紅茶

*『おやまぼくち』キク科の植物で、この葉を一週間程煮込み、ドロドロになったものを水洗いし葉脈のみを取り出す。
大体、5`の葉っぱから約5c程度しか採れないそうだ。この葉脈5cを蕎麦粉2`に混ぜる。

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